大東文化大学 書道科 卒業制作展
今年の2月から月1ペースで目習いレッスンを始めてみました。色々な書の展覧会に行って、実際の作品を見て目で書道を習うという試みです。第一回目は東京都美術館で開催されました大東文化大学 書道科 卒業制作展。
展覧会場にてインタビューをしてきましたので、目習いレッスンに参加できなかった方などは是非読んでみてください。
【今回お話を伺ったのは…】
大東文化大学 書道科 卒業生
望月 楽人(もちづき らくと)さん
【出展作品は…】
臨書:傅山 七言絶句草書軸
創作:成島柳北の詩より

書道を始めたきっかけや背景について
書道を始めたきっかけは何ですか?
僕は小三から始めたんですけど、きっかけが、母親に書道教室に入れさせられたっていう…書き順がめちゃくちゃだったので。そこから何気なく続いていった感じです。中学も書道教室通ってて、高校で大宮の大宮光陵の書道学科と書道部をどっちも入って、そのまま大東文化で書道を続けた感じになります。(大東文化大学を選んだ理由は)高校で書道にすごい興味を持ったので、さらに深めていきたいなという理由で、一番最適な場所がここでした。
書道のどんなところに魅力を感じてここまで続けてきましたか?
高校受験のときに、大宮光陵を受けるということで実技の練習をしたんですけど、その時に今までやってた「お習字」とは全く違う観点で見なきゃいけないので、何かそこでやっぱちょっと面白さを感じましたね。あとこの「文字資料」が拓本(*)として残ってるっていうことにもすごい興味を持ったので、そこからすごい書道への熱量が変わったのかなと思います。それまではもう割とぼけ〜っと(笑)。
拓本・・・石碑、木材、金属などに刻された文字を直接紙に写し取ったもの。魚拓もその一種。

卒業制作の作品について
今回の作品について解説をお願いします!
卒業制作では、臨書と創作の必ず2点になってます。
まず臨書の方からなんですけど、この二八(*)(ニハチ)の紙に2行で、脇に長落款(*)を入れるという形式を初めて挑戦しました。それで両脇を同じぐらいに余白を空けるんですけど、文字の大きさが、長落款と本文で違うじゃないですか、なので、どれぐらいの行間を取れば、ちょうど良くなるのか。あと逆にこの行の間がすっきり見えるように、ちゃんと計算しながら文字を並べていったところが大変でしたね。今日のこの「すっきりさ」ってところを見ていただきたいです。

二八・・・2尺×8尺(約61×242cm)の画仙紙のサイズのこと。通称「ニハチ」と呼ぶことが多い。
長落款・・・●●臨 だけでなく、いつ・どこでなど、作品を揮毫した際の作品にまつわる5W1Hを記録するために書いた長い落款のこと。今回の臨書作品には 〜令和甲辰師走蜈蚣軒旧土間楽人臨〜 と書かれている。蜈蚣軒とは望月さんの書斎のこと、そこにある張り替え建ての土間で制作したとのことです。
創作の方は、自分がやりたいようにやりまくった作品です。 今の書道って結構、墨の黒いところが多い方が受けがいいっていうのはありますけど、僕はそれに囚われるっていうより、僕の好きな書がこれなんです。自分が好きな昔の書家とかいっぱいいるんですけど、今のこの現代の書家で誰風っていうよりかは、もう本当我流になります。白(余白)が多めの作品で、たまにちょっと連綿(*)もあるんですけど、なるべく単体でポツポツと。こちらも行のすっきりさとか、白の綺麗さに対して、黒と白のコントラストのバランスをちょっと見ていただきたいなと、はい。

連綿・・・「れんめん」文字を続けて書くこと。その線を連綿線と言う。今回の作品では2行目末尾の「少年」だけに連綿が使われている。
好きな古典作品は何ですか?
もっぱら米芾(*)が好きです。ちょっと米芾を書きすぎて別のものをやろうと思って臨書作品では傅山(*)を書いたんですけど、創作もうちょっと傅山っぽいものを出したかったんですけど、どうしてもこういう「不」とかで米芾が出てしまうぐらい。
米芾・・・「べいふつ」中国の北宋の書家・画家・収蔵家・鑑賞家・文学者。米元章の名もある。代表作:「蜀素帖」(しょくそじょう)

傅山・・・「ふざん」中国の明代末期・清代初期の書家・画家。長条幅の連綿書を代表する書家である。

曽我:この「月」とかもだいぶ米芾感が出ていますよね!

望月さん:そうですね〜。やっぱり(米芾のように)文字を傾ける、本当に左に傾けてしまいますね。これはこうしようと思ってるんじゃなく、僕の腕が勝手に動いてしまう感じで、もうそれぐらいに高校の頃から米芾は書き続けてきましたね。
ただそんな二つ(米芾と傅山)だけを掛け合わせるんだけじゃなくて そこにどうやって自分を出していくか、やっぱこの自分というところに、自分を出していくかを一番考えていました。
曽我:本当に米芾が好きなんですね〜。この「感」の心とかも何かもう米芾出てますよね(笑)
望月さん:やっぱり出てしまいますね、米芾が。蜀素帖を何周臨書したことか(笑)
曽我:米芾が好きになったきっかけとかあるんですか?
望月さん:高校の頃にパラパラっと法帖を開いてみたときの第1印象が僕のどタイプすぎましたね。そっから書いてみて、こんなお洒落な字を書ければ書道をやって楽しいだろうなと思ったことがきっかけですね。
曽我:同級生でそこまでの米芾好きっているんですか?
望月さん:意外といないですね。やっぱり王鐸(*)が人気ですね。米芾友達はいないです(笑)
王鐸・・・「おうたく」中国の明代末期・清代初期の書家・画家。傅山同様に長条幅の連綿書を代表する書家である。1日臨書し、1日創作するという姿勢を貫いたと言われており、臨書作品も数多く残っている。

書道の学びと成長について
大学で書道を学ぶ中で、何か印象に残ってる経験とかありますか?
高校時代は臨書の中でも形臨(*)ばっかり行ってきたんすけど、大学入ってきて、臨書ももちろんするんですけど臨書作品としての制作の仕方、形臨から臨書作品への移行に一番苦労しました。大学の先生方にも「線を綺麗に書きすぎる」であったり「真面目に線を追いすぎ」と指導いただくことが多くて。でも自分は今まで形臨ばっかりしてきたので、もちろん丁寧に書くことは悪いことじゃないんですけど、どう垢抜けさせるかが僕にとっての大学時代の課題でしたね。やっとここまで、いやまだまだなんですけど、とりあえず4年間でここまで垢抜けができた、という感じになっております。
形臨・・・臨書の一形態。主観を抑え、原帖そのものを写実的に臨書する姿勢のこと。その他の形態に、意臨・背臨がある。
技術や表現力が向上したなって思った瞬間ってありましたか。
そうですね。高校に入る前は「お習字」だったのが、高校入ってからは「書道」の世界に広がって。古典を臨書するっていうことがほぼ初めての状態で、まず字の見方が変わりましたね。今まで小中学生の頃は何て言うんでしょうね。もちろん、形は見てたんですけど。どの角度で〜とか、どの向きで筆を置いて〜とか、そんな細かいことを考えずに、ただこの線がどっちの方向に進んでいるというぐらいだったんですけど。高校に入ってから起筆の向きが鈍角なのか?鋭角なのか?観察力が身についたことが大きいですね。それが大学に入ってから結構その鑑識眼というのがさらに磨かれていって。いろんな作品展もやっぱ大学入ると見に行ったんですけど、この人のこの作品のこの起筆はどうやってるんだろう?とか自分で考えるようになりましたね。それと、高校の頃にちょうど東京国立博物館で顔真卿(*)の祭姪文稿がちょうど展示されていまして、それ見に行った時は、作品見ることの大切さ、実際に見ることの大切さ、墨の色だったり、紙の色とか文字の実際の大きさとか雰囲気とかは、やっぱ法帖とかではわからないので、それ見たときの空気感を味わえたのは貴重な体験でしたね。いろんなものを見て観察力がアップして、何かこの技術力もそうですね。見る目が本当に肥えましたね。書道以外でも日展とかいくと油絵とか見るんですけど、あんまり詳しくはないんですけど、なんとなくわかるんですよね。ここをメインに見せたいのかな〜みたいなそんな感じのがちょっとわかるようになったと思います。
顔真卿・・・中国の唐時代の書家、政治家。唐の四大家の1人。多宝塔碑、顔氏家廟碑、祭姪文稿などが有名。

将来の目標や夢について
今後、書道をどのように活かしていきたいですか?
これについては、すでに答えを出してますね。自分、内定先がアパレルになるんですけど、1年販売職やって3年ぐらいから本社の方に行こうかなとか考えてはいるんですが、書道をどう活かすかっていう点でいいますと、「書道とファッション」の共通点 としては、書道というのは空間芸術「白と黒の空間芸術」って言われるんですけど、ファッションも自分の周りの空間を多分統べると思うんですよ。そこら辺のその空間の(ファッションだと白黒以外にもいろんな色が入ると思うんですけど)、色の組み合わせ方での空間の処理の仕方、柄と無地のもので空間の処理の仕方とか、結構共通するものがあったりと思っています。主役をどう見せたいのか、どう際立たせるかとかも、服でもやっぱり今日はパンツを見せたいから他をどうするかとかその考え方は結構一緒なんですよね。 そういうところをやっぱり見る目とか、そういう空間の処理の仕方とかを書道以外のファッションでも、意外と活かせるんだぞっていう。書道出身者が作るこのブランドみたいなものを作りたいと、 そうですね。結構自分で立ち上げてみるのもすごい面白いですね。はい3つぐらいすごい ねもうなんかがんと決まってますね そうです。やりたいことは結構自分たくさんあるんで、全てやりたいことに対して書道をどっか紐付けていきたいですね。

これから書道を始める方へメッセージ
自分、左利きなんです。もし左利きで書道をやるか迷ってる人がいたら伝えたいんです。「左利きでも全然書けちゃうぞ」っていうことを。文字自体が右利き用なので、左利きであることが不利の要因ではあるんですけど決して不要の要因ではないというか。
右利きの場合は、筆管(筆の軸)が先行して、毛が後からついてくるように書くのですが、左利きの場合は、毛が先行して筆管が後から来るんです。毛を押し出すように書くんですよね。そこがやっぱり難しいっちゃ難しいんですかね。
僕も無理して手首を角度を変えたりもするので、でも左利きだからと言って書道を諦めるのではなく、左利きなりの書道のやり方っていうのがあって、横の線とかは強く弾きやすいですね。

左利きの方が右利きよりも有利な線だと他に蔵鋒(*)があります。すごい楽で(笑)。 右利きの場合、蔵鋒からの運筆って自分の手が入って線が隠れて見えないのはあるんですけど、左利きの人は逆で、すごい楽なのでなんで僕もすごい出ちゃうんですよね蔵鋒が。
蔵鋒・・・「ぞうほう」用筆方法の一種。起筆の際に穂先を点画の中におさめ隠すようにして運筆すること。穂先を見せる運筆は露鋒(ろほう)と言う。

逆に右払いは長く伸びやかに書きにくいです、脇がどんどん締まってくるので。。どっちもどっちですね。
なので、もし左利きの方がいらっしゃって、お悩みでしたら、こういう人がいたよっていうことをちょっと伝えてあげてください。左利きでこれから書を始めようって方も、今やっている方もそうですが、僕も挫折しそうになったことありますけど続けてればやっぱり身に付くので、ぜひ書道を学んでいただけたらなと思います。
以上で終了となります。
会場で急なインタビューに快く対応いただきまして、望月さんありがとうございました!
ご卒業おめでとうございます。
書道出身者のブランドできましたら買いに行きます!
陰ながら幸運と成功を願っています。
【完】
3月の目習いレッスンは成田山書道美術館です。